わざわざ「国内向け」 注入バルブ を販売しているのは何故?日本と海外 注入バルブ の違い
電動ガンとは異なり、リアルな操作やブローバックがマニア心をくすぐるガスブローバックエアガン。現在では、マガジンに設置された 注入バルブ からガスを充填し、それをパワーソースとして利用するタイプが一般的となっています。
最近では、サバイバルゲーム黎明期には当たり前であった外部ソース式も再注目されていますが、それではガスガン本体やマガジンにホースが連結されるため、装備をスッキリさせたい、リアルな装備でサバゲーをしたい、という考え方のプレイヤーには煩わしいのも事実。やはりメジャーなのはマガジン充填式のガスブロでしょう。
ガスブロでは充填用のガスを都度マガジンに注入する必要がありますが、東京マルイなどの国産ガスガンとVFC・GHK・WEなどの海外製ガスガンでは、ガス注入の点で大きな違いがあります。今回はその違いや、海外製ガスマガジン用に作られた国内ガス用 注入バルブ について解説したいと思います。
国産エアガンの発展と海外製エアガンの登場
国産エアガンと海外製エアガンの違いの前に、まずは現在のガスブローバックエアガンがどのように進化を遂げてきたのかおさらいしていきましょう。
ちなみに、「エアガン=BB弾を発射するトイガン(遊戯銃)」という考え方は、銃社会ではない日本ならではの言い回しで、海外ではエアガンというと圧縮空気を用いた空気銃、言いかえれば実銃にあたります。海外での遊戯銃は「エアソフトガン」という表現を使用するのが一般的です。弊社の店名が「オルガエアソフト」と名付けられているのも、海外市場も視野に入れたエアガンショップのためです!
ですがOUTLINEでは引き続き エアガン = エアソフトガン という表現で行きます。話が脱線しすぎましたかね(笑)
サバゲー文化やエアガン製品が現在のように発展したのは、世界で最も厳しい銃規制が行われている日本だからこそ、と言えます。あこがれが強く、かといって悪用の恐れも少ないことから、トイガンとしての開発に先人たちが掛けた熱い思いが形になっていったのです。
スプリングやガスによる圧縮空気を利用してBB弾を発射するというメカニズムはエアガンの基本動作です。しかしながらエアガンが登場した当初、スライドは固定式でホップアップシステムもなく単にBB弾を空気圧で飛ばすだけのもので、現在の高性能なエアガンとは程遠いものでした。
その後、MGCからBB弾の発射と共にスライドがブローバックするメカニズムを搭載したガスブローバックモデルのグロックが登場し、そのギミックは衝撃的で同社のヒット商品となりました。そして、それに続けとウエスタンアームズや東京マルイ、タナカ、KSC各社から ガスブローバック エアガン が発売されていくこととなります。
また、同時期にはショップのオリジナルパーツによりBB弾にホップ回転を与えて飛距離を伸ばすシステムが徐々に出始め、1990年代になるとメーカー製品でも最初からホップアップシステムが搭載されたエアガンが登場する様になります。
そうやって国産ブランドが発展させてきたエアガン文化ですが、突如「黒船」が襲来します。海外メーカーによる輸入製品の登場です。海外のエアガン製品が日本国内に輸入されるようになったのは2000年代に入って数年の頃です。
当初は、海外製エアガンといえば国産エアガンのメカニズムをコピーしたブローバックエンジンを搭載し、低価格ではあるがそれなりの性能でしかないものが中心でした。
ですが、海外メーカーでも徐々にオリジナルのモデルやコンバージョンキットの製造販売など、技術と販売網を広げながら賑わいを見せ、日本のエアガン市場においてもそのシェアを伸ばしてきました。現在、海外製エアガンは日本のみならず世界中に普及し、世界各国のレギュレーションに合わせてサバゲーが行われています。
ガスガン用パワーソースの変移
エアガンでパワーソースとして用いられるガスとしては、古くはCFC12、いわゆるフロンガスが使用されていました。しかしCFC12ガスは、1987年モントリオール議定書で温室効果ガスとして今後の製造、または輸入が禁止となりました。
その後、外替フロンとしてHFC134aや152aが使用されましたがこれらも1997年、「気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書」にて、今後の製造や使用を段階的に削減または廃止の取り組みを行うこととなりました。
そして近年、更なる環境問題やSDGsの取り組みによりORGA YouTubeチャンネルでも紹介したS&T ダンガン ハイパーガスのようにHFO1234ze + LPGといった環境保全を考慮した新たなガスも登場しています。
いずれのガスもトイガンを動作させるために必要ですが、マガジンにガスを注入する際に注入音がするマガジンと無音のマガジンがあるのはご存じでしょうか。
注入バルブ には日本仕様と海外仕様が存在
海外製ガスブロのマガジンにガスを注入して、海外の注入バルブは「音がしない」ということを知った方も多いと思います。現在は、初めてのガスガンに海外製品を買われる方も少なくないと思いますので、逆に国産のガスガンで音がするという違和感を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。
国産と海外製のガスブロマガジンの一番わかりやすい違いは 注入バルブ と言えるかもしれません。日本メーカーの 注入バルブ はガス充填時にマガジン内部の空気を外に出しながら注入することでガスの充填を行い易くしています。また、ガスが充分に注入されるとバルブから「吹き戻し」が発生し、満タンであることを知らせてくれます。
これに対して、海外製の 注入バルブ は充填時に音がしません。海外製 注入バルブ はマガジン内部のガスの充填具合もわかり難いため、感覚やスケールで注入量の重さを測りながら行うしかありません。海外製の 注入バルブ は総じてガスの充填がされづらく、何十秒もガスを注入したのにも数発撃ったらガス欠…ということもよくあります。これは何故なのでしょうか。
海外ではガスガンのパワーソースとして圧力の高いLPG等を使用するのが理由です。海外では高圧に対応した 注入バルブ を使用するため、日本のHFC134a/152aでは圧力不足でガスの充填に時間が掛かったり、上手く入らなかったりするのです。その対策として、注入バルブを弊社でも販売している日本仕様のタニオコバ製 注入バルブ に交換することで、国産ガスガンと同じようにガス注入を行うことができるようになります。タニコババルブは日本の低いガス圧でも注入しやすいように設計されています。
マガジンの構造とガスの注入方法
ガスマガジンの仕組み
ガスガンで使用するガスは、お手持ちのガスボンベや缶を振っていただければわかると思いますが、ガスが液体となった液化ガスを使用します。通常は気体であるガスに対し一定の圧力を掛けることで液化する、という現象を利用して缶内に溜まっています。
ガスガンは液化ガスのままでは動作しませんので、液化ガスを気体に戻した気化ガスにすることが必要です。液化ガスを溜めつつ、気化させる役目を担うのがマガジンです。強度を持たせるためマガジンは金属製となり液化ガスの状態を目視することはできませんが、100円ライターを想像していただければ液化ガスというものがイメージしやすいかと思います。
余談ではありますが、ガスブロを撃っているとブローバックした際にスライドやボルトキャリアから白い霧や液体が噴き出す経験をしたことがある方も多いのではと思います。これは業界的に生ガスと呼ばれ、液化ガスが十分に気化せずに放出している状態です。原因としてはマガジンにガスを入れ過ぎて内部に十分な気化スペースが無い場合や、連射をすることでマガジンの温度が下がってしまい、ガスの気化が追いついていない状態で発生します。液化ガスを使っていることが良く分かる現象の1つですね!
ガスの注入
マガジンにガスを注入する際は、ガス缶のノズルを下を向けた状態で行います。ガス缶のノズルを上にした状態でマガジンに注入しようとしても、缶内で気化したガスのみが放出され液化ガスが充填されません。必ず缶を逆さにした状態で注入を行って下さい。
また、海外製ガスマガジンは生ガスが吹き戻すまでガスを注入してしまうと、マガジン内部の気化スペースが少なくなり安定動作を妨げてしまいます。
東京マルイなど国産メーカーの純正注入バルブはマガジン内部に長く出っ張るように作られており、気化スペースがゼロになる前にノズル先端に液化ガスが到達した時点で吹き戻しを発生させ、それ以上液化ガスが充填できない様になっています。それに対し海外製ガスマガジンの注入バルブは短く、内部の気化スペースを考慮してユーザー自身でガスが入り過ぎない様に注意する必要があります。これはタニコバ製バルブでも同じです。
海外製ガスマガジンへのガス注入において大切なのは、最低でも1マガジン(フル装弾数分)を撃ち切ることに必要な液化ガスのチャージと、ガスの気化スペースのバランスを保つことです。注入する量は多くても70~80%程度に留めることを意識しましょう。
日本製のガスマガジンより長めの注入を行うことは必須ですが、かといって長すぎてもガスが入り過ぎてしまうため、何秒くらいが最適か経験の中で覚えていく必要があるでしょう。
海外製マガジンにガス注入するコツ
正しいガス注入を行っても、海外製ガスマガジンでは中々ガスが入らないことはよくあります。タニコババルブに替えれば改善されますが、それでもイマイチ…と感じる場合はこれから紹介するコツを試してみてください。
マガジンへのガス注入は言わば、2つのタンクを直結して液化ガスを移動させている行為です。2つのタンクに内圧差があるためガスが移動します。ガス缶側は逆さまになることで気化スペースが密閉され高い圧力をキープし、マガジン側は 注入バルブ を押している間エア抜きの穴も開通するため内圧が上がりすぎることなく液化ガスが入りやすくなっています。
しかし、ガスマガジンが温かい場合はどうでしょうか。温度が高ければ気化スピードも早くなるため、ガス缶側と内圧差が小さくなり中々ガスが入っていかなくなります。また、海外製の 注入バルブ はものによってエア抜きの穴がない場合もあるため、マガジン内圧が上がりやすくなります。
こういった場合は一度注入をやめ、放出バルブを押して中のガスを少しだけ抜きましょう。気化は周りの熱を奪う性質があるのでマガジンを冷やして内圧を下げ、ガスを注入しやすい状態を作れます。また、ガス缶も注入を続けていれば冷えてきますので温まるまで待つ方が良いでしょう。ガス缶の残量が少ない場合も圧力が弱くなるため、もう入らないなと思ったら新しいガス缶を開封した方が良いでしょう。
別の原因として、気づかぬうちにマガジン内の液化ガスが満タンになっていて、発射も注入もできないという状態になっている可能性もあります。先述の通り、海外製ガスマガジンは気化スペースが必ず確保できる設計ではありません。このような場合も、放出バルブを押して中のガスを少し抜いてやれば撃てるようになります。
ただし、放出バルブを押す際は慎重さを忘れずに!一気に大量のガスを抜くとガスルートパッキンが吹っ飛んでしまいます。パッキンを紛失してしまっては元も子もありませんし、勢いよく飛んだパッキンが自分の顔や目、周囲の人に当たる可能性もあります。また、一気に温度が下がるためガスに触れた部分や放出バルブを押した指に軽い凍傷を負う場合もあります。
怪我をしないよう、そして周囲に迷惑を掛けぬよう、放出バルブは少しずつ回数を分けて押すことを心掛け、マガジンの向きにもご注意を。
※放出バルブを直接操作することは基本的に推奨されておりません。緊急時の対策としてのみ、充分にご注意のうえ個人の責任において行ってください。必要がない場合は放出バルブに触れないでください。また、ガスマガジンの保管時にもガスを抜く必要はありません。
注入バルブ を分解
日本仕様(タニオコバ)と海外仕様の注入バルブの構造にはどのような違いがあるのか、分解して比較します。
注入バルブ上部のパーツにはネジが切ってあり連結されていますので、プライヤーなどで回すと分解することができます。内部にはスプリングとバルブピンが入っており、ピンには小さなOリングがはめ込まれています。バルブピンはスプリングで外方向にテンションがかけられており、通常はガスが漏れないよう弁の役割を果たします。ガス缶のノズルで押し込まれると弁が開放されガスが注入できるようになる仕組みです。
この基本的な仕組みには日本仕様と海外仕様で大きな違いはなく、強いて言えば日本仕様の方がスプリングのテンションが強めになっている程度です。また、注入バルブには注入口とは別に横に小さな穴が空いているのを確認することができます。この穴はガス注入時にマガジン内部のエアを抜けやすくするためのもので、日本仕様と海外仕様ではこの穴の大きさにも違いが見られます。バルブによっては穴がないものもあります。
エア抜き穴の大きさは東京マルイ純正バルブでは海外製と大差ないのですが、タニオコバ製は極めて小さいです。あまり大きいと内圧を下げ過ぎて液化ガスの状態をキープできないという理由がありそうです。もっとシンプルで、注入中のロスを減らしているのかもしれません。ここはちょっと想像の域を出ないため確たることは言えませんが、絶妙なバランスで設計されているのは間違いありません。
エア抜きのないバルブの場合は、ガス缶とマガジンの間で液化ガスと気化ガスの交換をおこなっているのでしょう。この方式は日本のガス圧では合わないのか、全くガスが入らない場合があります。
続いて注入バルブを下から比較します。画像では見にくいですが、海外仕様バルブの注入口にはOリングがありますが、日本仕様バルブにはありません。このOリングはバルブピンの外側にしっかり噛み合あっており、ピンを抜くにはOリングを外す必要があります。このOリングの存在により、海外製注入バルブではガス缶のノズルが密着するため、注入音やマガジン内からのエア抜き音がせず吹き戻しもありません。
注入バルブ によるガスの消費量の違いは?
日本仕様と海外仕様の 注入バルブ の構造的な違いを見たところで、数値的な比較もしてみましょう。
日本仕様のバルブは注入時に「シューシュー」と音がするため、ガスが漏れているのでは?と感じる方も多いと思います。それでは実際にマガジンに10g(仮)のガスを注入するのに消費するガスの量は、日本仕様と海外仕様でどのくらいの違いがあるのか実測したいと思います。検証に使用するガンは、SIG AIR から発売されている M17 のマガジンを使用し、純正の海外製バルブの場合と弊社で販売を行なっているタニオコバ製 注入バルブ へ交換した場合で比較テストを行いました。注入バルブの交換は、マガジン内部のガスがない状態で、マイナスドライバー等で簡単に行うことができます。
まずは、海外仕様バルブで276gの空のマガジンに10gのガスを注入します。マガジンが286gになるまでガス注入を行ったところ、ガス缶の重量変化は注入前290gに対し注入後280gとなりました。注入量と同じ10gのガスを消費したことから、マガジンへほぼ漏れなくガスを充填したことになります。
日本仕様バルブで同様に10gのガスを注入したところ、ガスボンベの重量は注入前280gに対し注入後267gとなり、13gのガスを消費したことがわかりました。ガスマガジンにガスを注入するのに要した時間は日本仕様バルブの方が少なく、注入自体はスムーズに行うことができましたが、その反面少し余分にガスを消費することになりました。やはり、ちょっとずつ漏れているんですね。
これを勿体ないとは思わないでいただきたいのですが、やはり日本製の注入バルブはマガジン内部のエアを適度に抜きながら内圧を下げているので、ガスが注入しやすいということになります。
ちなみに、M17のマガジンに日本仕様の注入バルブを装着し、吹き戻しが起きるまでガス充填を行うとマガジンの重量は292gとなりました。空のマガジンの重量は276gですので、逆算するとマガジンには16gガスが充填できるということがわかりました。マガジンの注入量は7~80%くらいに留めると動作も良いため、11.2~12.8gが理想的な量と言えます。
海外製バルブの個体に合わせて適宜交換を
筆者も実際に海外製ガスブロのマガジンを複数本所有していますが、海外製バルブでもガスが比較的入れ易いマガジンもあります。それらは普段海外製バルブのまま運用を行っていますが、時間をかけてもガスが入りにくいマガジンは日本仕様バルブに交換してあります。ガス缶のノズルも各社寸法に違いがあるため、注入バルブの相性によってもガス注入に違いが出てることもあります。お手持ちのマガジンのガス充填でお悩みの方は是非バルブ交換を行ってみることをおすすめします。